離婚・不倫の慰謝料

ここでは、離婚や不倫など男女関係のトラブルに関する慰謝料の判例を見てみたいと思います。

離婚等男女関係に関する慰謝料額の算定については、慰謝料のキソに書いた要素のほか、加害者(主に夫でしょうか)の支払能力や保有資産の状況、婚姻の年数が関係してきます。婚姻の年数が関係してくるのは、後になるほど再出発が難しいという事情によります。

加害者が相当に地位のある人で、表沙汰にしたくないという場合は裁判外の和解で高額な慰謝料が認められるケースもあるでしょうが、夫が普通のサラリーマンであれば、たぶん妻が思うほどの慰謝料の請求はできないと思われます。「慰謝料算定の実務」(千葉県弁護士会編)によれば、判決で認められたケースで一番多いのは200万円でした。

なお、裁判、調停、裁判外の交渉での示談など含め、平均的事例では、300万円から500万円の請求に対し、100万円を最低ラインとして上限は500万円、一般的には100万円から300万円の範囲での解決が多いようです(「弁護士が悩む家族に関する法律相談」日本加除出版p.15)。

離婚の際に支払われる金銭や財産にはいくつかの種類があります。人によっては全部まとめて慰謝料と呼んだりしていることもあり、紛らわしいのでここで整理してみます。

純粋な慰謝料

当サイトで焦点を当てているのが、純粋な慰謝料(精神的慰謝料)です。ある出来事からどの程度の精神的なダメージを受けるかは人によって異なりますし、それを一律の基準で金銭に換算するのも困難です。下記の判例要約では、できるだけ他の請求と精神的慰謝料を分けて記載しています。

財産分与

財産分与は、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を離婚時に清算することです。結婚前から持っていた財産や相続した財産を除き、基本的には、婚姻後に増えた財産を半分ずつ分けます。妻が専業主婦でも基本的には半分もらえます。夫名義の財産でも、夫婦で協力して取得したものであれば、財産分与の対象です。

養育費

子供が成人するまでの養育にかかる費用は夫婦で負担します。離婚した場合でも扶養義務は双方にありますので、経済力に応じて子供の養育費を分担します。妻が子供を引き取ったとすれば、夫は自分の負担分を妻に支払います。これが養育費です。

なお、離婚の際の養育費については裁判所が作成した算定表というものがあり、裁判所の審判ではこの金額より大幅に多い額が認められることはまずありません。自分と相手方の職業・年収・子供の数・子供の年齢によって金額が変わりますが、例えば無職の妻が7歳の子を引き取って育てることになり、給与所得者である夫の年収が500万円だったとすると、月に4万円から6万円の養育費が適当と判断されることになります。

芸能人の離婚慰謝料

テレビや新聞では、よく芸能人の離婚の慰謝料がいくらだという報道がなされます。こういった金額をみて、離婚すれば妻が夫からこのくらいもらえると考えてしまう方もいるかもしれませんが、一般人の場合とは金額がかけ離れすぎていて参考になりません(冒頭で触れたとおり、収入の多寡が慰謝料にも反映されます)。また、金額については推測で記事が書かれていることも多いようです。当サイトでも芸能人の離婚慰謝料で取り上げていますが、あくまで話のネタ程度にお考えください。

婚約破棄

結婚に至る前に破綻するのが婚約破棄ですので、本記事タイトルの「離婚」から若干離れますが、関連するケースとして紹介しておきます。

婚約をした場合は、誠意をもって交際し、夫婦共同体を成立させるように努める義務を負い、一方から婚約を解消する場合は、損害賠償責任を負うことがありえます。しかし、交際中の男女の付き合いにおいては、いつをもって婚約したと判断すべきなのか、必ずしも明確でない場合があります。婚約指輪の贈呈、結納など様々な状況証拠が固まっていないと裁判所はなかなか婚約と認めてくれません。慰謝料は離婚の場合よりはるかに少なく、数十万円程度が限度のようです。

離婚の慰謝料に関する判例

事件番号等 慰謝料額 概要
平成23(ネ)375 慰謝料請求控訴,同附帯控訴事件 平成23年10月27日 名古屋高等裁判所 その他 名古屋地方裁判所 50万円 元妻が元夫の浮気相手の女性に対し600万円の慰謝料を求め、50万円が認められた。
平成13(タ)26 離婚等請求 平成15年02月18日 岡山地方裁判所 倉敷支部 1000万円+不動産(自宅他) 夫の浮気や暴力により離婚と慰謝料が認められた例。子供は既に独立しているため養育費は無し。
平成12(タ)114 離婚等請求 平成13年11月05日 神戸地方裁判所 慰謝料800万円+財産分与100万円+2人の子供の養育費は成人するまで一人当たり月7万円 離婚と慰謝料が認められた例。夫の年収は1300万円。
昭和40ネ494 慰藉料請求事件 昭和42年04月12日 東京高等裁判所 60万円 男性の不倫により交際を始めたが、結婚の期待を裏切られ、子供を一人で育てなければならなくなった苦痛に対する慰藉料。
平成17年5月30日 東京地方裁判所 1000万円(請求は3000万円) 1000万円という高額の慰謝料が認められた。婚姻期間30年。子ども無し。夫妻で購入した海外の別荘で他の女性と同棲するという不貞行為と、その後の妻に対する暴力等によって婚姻関係が破綻し、破綻の責任は専ら夫にあった。*実務2,p.17
平成18年6月15日 東京地方裁判所 250万円(請求は300万円) 婚姻期間が2年と短いにもかかわらず、250万円という比較的高額の慰謝料が認められた。複数の女性との不貞行為や、妻に対する再三にわたる暴力・暴言(妻の身体障害に触れる等)によって婚姻関係が破綻したことが理由。*実務2,p.18
平成18年4月28日 東京地方裁判所 200万円(請求は300万円) 婚姻期間3年で妻の不貞により離婚。子どもはいなかった。妻が、自ら不貞行為をしておきながら夫を一方的に非難する言動を繰り返したり、夫に無断で協議離婚届を提出したりしたことにより、夫が受けた精神的苦痛は軽視できないとする一方で、もともと円満な関係ではなく妻の不貞行為が離婚の決定的な要因とはいえないとした。*実務2,p.17
平成22年3月11日 東京地方裁判所 500万円(請求は1000万円) 婚姻期間21年。夫の身体的・精神的暴力により離婚。妻が現在も心身のバランスを崩していることを考慮。*実務2,p.19
平成21年4月27日 東京地方裁判所 300万円(請求は1000万円) 悪意の遺棄による珍しい例。婚姻期間は40年。妻と生まれたばかりの子を置いて家を出て、離婚が成立するまで34年間戻らなかった。先天的に身体的障害のある妻が女手一つで子どもの養育をしてきた労苦は極めて大きいとしてこの額。*実務2,p.19
平成18年6月15日 東京地方裁判所 250万円(請求は300万円) 婚姻期間が2年と短いにもかかわらず、250万円という比較的高額の慰謝料が認められた。複数の女性との不貞行為や、妻に対する再三にわたる暴力・暴言(妻の身体障害に触れる等)によって婚姻関係が破綻したことが理由。*実務2,p.18

内縁関係の破棄と慰謝料

内縁とは、夫婦としての共同生活を送っているが、婚姻届を提出していないため、法律上の婚姻と認められないものをいいます。実態としては婚姻と同様であるため、基本的には離婚と同様の考え方になります。

内縁関係の破棄の慰謝料に関する判例

事件番号等 慰謝料額 概要
平成20年10月23日 東京地方裁判所 80万円(請求は約1220万円) 内縁期間は11年。男女がお互い経済的に独立して通い婚に準ずるものであったため金額は少なめ。生活の一部につき共同し、夫婦関係を成立させる意思が一時はあったため、内縁と認められた。*実務2,p.20
平成22年10月28日 東京地方裁判所 100万円(請求は2000万円) 重婚的内縁関係。内縁期間は22年で子もいた。女性は男性と交際開始時、当時の夫と離婚して男性と結婚すると約束したにもかかわらず、のちに拒否し、夫との離婚も成立せず。その間男性は他の女性と交際開始し転居。*実務2,p.21

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